働く、ということが自分にとってよい経験になったかどうかわからない。ただ私には働かずそのまま大学院に行く、という選択肢と環境がなかったし、一度働いてみたら、働くということの楽しさもわかったりして、もっともっと未来を見据えられるところで転職しよう、などと思い、その矢先で文字通りの入院をした。その後しばしまた働いてみるのだけれども、その時働いたという経験が何になったのかよくわからない。でもその間にパートナーと出会うことができたし、東京という街を思う存分楽しむことができたし、私の人間的な弱点は全く治らなかったとは思うけれど、少しは何かができるようになっていればいいとも思う。
また学問をしようと思ったのは、昔から研究をしたかったのもあるし、使命感などもあるし、自分は本を読んだり書いたりしている方が幸せだという思いもある。本を読んで、何かしら学ぶことをして、でもそれだけでは全然やり込んだ気にもならないので、もっと学びたいと思った。
父親には、「ここで大学院に行くということが、これしか道はないという、退路を断つことになるのを忘れるな」と言われた。
渡辺京二ではないが、私は筆で稼ぐことを決めたのである。
どうにか生きのびなくてはいけない。