はちみつのdiary

hannyhi8n1から引っ越しました。

読んだ:『君のクイズ』

新刊を出している小説家でこれから読まれていく作家は誰か? と訊かれたら、私は「小川哲」と答えると思う。

 

小川哲の作品は、「つくりたいもの」がはっきりしている。その「つくりたいもの」は別に読者の感情を操作しようとしたりするものではないし、「どういう展開になったら面白いか」が作者に問われる週刊連載のマンガとも違う。全て簡潔に一つの方向に収束していって、揺るがない人間の「エゴ」を書き通している。

(ここで言うエゴとは自我のことである)。

 

『君のクイズ』で語り手になるのは「クイズオタク」である。彼はクイズ番組で決勝大会に進み、本庄絆という人物を前にして敗れる。絶対負けない、という自信があったけど、予想もしない問題かつ答えられない問題で負ける。「やらせだったのでは」という疑惑が出てくる中で、クイズ番組の本大会の瞬間を思い出し、それにまつわるエピソードを読者に語ってくれる。

それらはどれも語り手の思い入れのあるもので、読んでいるうちに、主人公になったような気持ちになり、彼の情熱を理解する。ここがすごいところで、他人の情熱なんてなかなか理解しようと思ってもできないのに、語り手が熱心に教えてくれるものだから、だんだん自分もクイズにハマる感覚がわかるのだ。

 

けれどもこの小説がほんとうにすごいのは、語り手がほとんど一人でつっぱしっていくところなのである。なんというか、一人コントを見ているのと同じで、ほとんど地の文で語られていくのに飽きさせないのがすごい。(北島マヤの『女海賊ビアンカ』を見ているようだ……。)最低限の登場人物だけが出てきて、競争相手だった本庄絆という人物を探っていく。

 

しかしまあ、私がやっぱり面白いと思うのは、他者を探っていくようで自分のことも振り返ってみる視点があるからなんだろう。

一方的に相手がどういう人間なのかを調べるだけでは面白くなくて、同時に、相手に寄って揺るがされている自分はどんな人間なのか? も描写されていて読んでいて面白かった。

 

私は人間のことを書いている小説が好きらしい。