花を運ぶ鳥の柄の缶をなんとなく選んだ。
もう一つは気球で、気球もその人らしいと思ったのだが、鳥の方がかわいらしかった。
清澄白河の古本屋で小説を買い、二回目のデートの待ち合わせをしている時にその小説を読み終えた。
小説のあらすじについて訊かれて、こういうシーンが印象に残っている、と感想とともに伝えると、英文学専攻だったというその人は学生時代に講義で紹介されていたな、と呟き、
「夕暮れの後には夜が来るんだと、その教授は言っていましたけどね」
と言って笑った。
「私は夕暮れ、好きですけどねえ」
などと私は答えた。
その人もほんとうは夕暮れの美しさを知っていたのではないかと思う。
花喰鳥の缶の中には紅茶が入っていた。
最初のデートの食後の飲み物に紅茶と答えていたので、この人は実はコーヒーよりも紅茶の方が好きなのではないか、と思った。
万が一、紅茶が好きでなくても飲めるように、ティーパックのチャイをささやかな誕生日プレゼントとして選んだ。
その日の夕食はウイグル料理であった。
すっかりプレゼントの存在を忘れていたけれども、メニューの中にchaiと書いてあるのを見て、
「そういえば」
と言って渡した。
「想像の三倍くらい嬉しい」
と受け取ってもらえた。
缶も選んでみたのですよ、と言ったのだが、花喰鳥がササン朝ペルシアに起源があることや、幸運の兆しであるということは全く知らなかったので、それは偶然なのであった。
花喰鳥を思い出すと、「めでたいな」という気分になるのは、11月も中旬から下旬にかけてのそのやわらかな思い出があるからかもしれない、と思った。