はちみつのdiary

hannyhi8n1から引っ越しました。

読んだ:『旋回する人類学』、松村圭一郎

松村圭一郎さんの本は3冊目である。

『うしろめたさの人類学』、『文化人類学の思考法』と読んできて、この『旋回する人類学』を読むことにした。

人類学の学問史を書いて欲しい、というオーダーを受けて書かれた本らしく、人類学の基本(マリノフスキ、ボアズ、レヴィ=ストロース)などをなぞった後に政治、市場(経済)、宗教、医療などのテーマに沿って文化人類学という学問の流れについて要所を掴んでいく。

 

この本は文化人類学の学問としての立場がどのようなものなのか、という裏テーマがあるような気がしていて、それは客観的と言えるものなのかとか、科学を内包する学問なのか、科学的な学問と言えるのか、西洋―非西洋という優越や文化を書くことについての翻訳の問題があるのではないか、などなど文化人類学の弱点についても書かれていた。

 

フィールドワークをした時に「文化を書く」ことの優越性については本当に実感させられた。もちろんフィールドに入って異文化に身を置くことで自分の文化というものを相対化させるという視点は大切にしたいのだけれども、物の見方を変えて大きなテーマについて考えを巡らせるというのはとても難しい営みなんだなと本書を読んで改めて思った。

 

印象に残っているのは二つあって、まず政治や国家とそれらに神性持たせるという箇所は日本のことを思いながら読んだ。けれども政治や国家という問題を扱う時に、政治の内部と国家間のやりとりについて比較するには文化人類学で扱う部族間の問題はミクロすぎるのではないかとも思った。国家というものが大きくなればなるほど、あるいは連盟というものが大きくなるほど優越的なポジションにいるアクターの優越性ばかりが強調され、それ以外が飲み込まれていくだけのグループという印象だったので、非西洋社会の立場からの西洋との協調という側面が文化人類学ではあまり見出されていないのかなと思った。西洋的な価値観を批判的に考察するための手段や視点についてもっと知りたいと思った。

 

もう一つ印象に残っているのは医療人類学についてで、やはり科学的知識を持って身体にアプローチする、ということには限界があるのではないかと思った。

アーサー・クラインマンの主張に興味を持っているので、みすず書房の『他者の苦しみへの責任』(論文集)はぜひ読みたいと思った。