セリーヌ・シアマの映画を十月上旬に観てきた。
前日に「ユリイカ」の特集も買った。
祖母が亡くなった後、孫の少女が森で遊んでいると、同じ年の頃の母がいて、二人は交流し――というお話。
シアマの撮る映画は繊細で美しいと思う。
ただ、子どもに母親について語らせるのはちょっと難しいのではないか、という感想を抱いた。
saebou先生は、母親にとっての救いの物語、としていて、そういう観点もあるのかと納得し、その方が自然な鑑賞の仕方だと納得してしまった。
感動したのは、お祖母ちゃんがお母さんを車に乗せて病院に向けて発車するシーンでお祖母ちゃんが主人公に向けて「さよなら」と言っているシーンだった。
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家族というもの、母とか父とかと会話する時は他の人とは感じられないその家族間の言語みたいなものが存在していると思う。
家族間の言語でほんとうに最後に言う言葉が「さよなら」という言葉で、その言葉を告げた後は孤独と過ごさなければならない。
主人公の母(大人)は母親を失った後、片づけをしていた家から消えてしまう。
夫は静かに片づけをする。この人はおそらく子ども好きなんだろうなという気がした。
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子どもの目線で自分の母親をとらえる、というのはずいぶん難しいことで、親密さがあっても、一人の別の人間なのだと観客にわからせることが必要なのではないかと思った。母と子どもの親近感というのは、子どもが成長する前のある時期にしか生じない現象で、それらは母親に対する絶対的な肯定と信頼からあらわれるものだからだ。
そういう点では『ジュリエット』(原作:アリス・マンロー)の方が絶妙な加減で一人の女性の一生を書いていると思う。
この映画は私の祖母が亡くなってから観に行った。
私は祖母に「さようなら」と生きている間に言えなかったので、お別れを言えた主人公が羨ましく思えた。