今年の私の1年のテーマは”Celebrate”である。
この間、故郷に帰った時にそれにぴったりのお話があったのでここに書いておいてみたいと思う。
顔合わせ食事会が無事終わり*1、駅にほど近いホテルに泊まった。
私とパートナーはベッドに辿り着くなりすぐにベッドに寝転がり、私はすぐに眠ってしまった。起きると、パートナーが「僕も眠るよ」と言って、そのまま眠った。私はシャワーを浴びて、ホテルにあるバーに行くことにした。
その日すでに、昼に赤ワインを1杯、カクテルを1杯、飲んでいたけれど、なんとなくお腹が空いていたし、軽く飲みたい気分だったのである。
ぼんやりとカウンターのあたりだけライトが照らされていて、夫婦が二組座っており、その間だけ一席空いていた。
そこにかけて、ダイキリを頼む。
バーにはたまに行くことがあるのだけれど、一人で行くのははじめてで、ちょっとどきどきしながら注文した。
カクテルについては、お酒の飲めないうちから『レモンハート』という漫画を読んでいたり、カクテルについての写真入りのレシピなど要するに両親の持ち物を読んでいたので、なんとなくこれはこういうお酒だ、というアタリがついていたのだった。
バーには様々なお酒の瓶があった。壁にはところどころに城の形をしたオブジェなどもちょこちょこ飾られていて雰囲気がよかった。音楽はビル・エヴァンスが延々と流れていた。
カクテルが来る間、このホテルに辿り着くまでの風景を考えていた。
顔合わせは避暑地にあるのだけれど、避暑地からここに来るまで地道を車で送ってもらった。後部座席に乗りながら、山の中を走り、田んぼの中を走り、ぽつぽつとお店があるところを走った。
後部座席の窓から暗闇を見ていると、その暗闇は怖いものではないような気がした。むしろ私は都会の路地裏とか、華やかに見える街と街の間にある暗闇の方が怖いと思った。田んぼのある暗闇は怖くない。*2
カウンターの左には大きな窓があって、そこに雨粒がついていた。イミテーションの蔦が窓を少し飾っていたので、9月というよりは6月くらいの感じがした。
注文したキュウリのピクルスがびっくりするほど美味しかった。四角い小さなガラスのお皿に氷が盛って合って、その上に薄切りにした何枚ものキュウリのピクルスと、オリーブが一粒あった。
隣の夫婦がマスターに話しかけていて、マスターは忙しそうにしていたのもあったので、カウンターだというのにスマホを触る。本は部屋に置いてきていた。
マスターが手元を滑らして私たちと夫婦の夫側の席の間に氷が飛んだ。
「失礼しました」
というマスターに、老夫婦の夫が、「僕がいる時でよかったよ」「ちゃんと気をつけなさいよ」とやいのやいの言う。
そう言っている感じが、別に嫌味な感じではないので、それを嫌味な感じと思わないのもここが私の故郷だからだろうか、などと思った。
「大丈夫でしたか」
と老夫婦の夫の方に声を掛けられて、
「大丈夫です。ありがとうございます」
などと言う。
タイミングを見計らって二杯目を注文した。マンハッタンである。
これについてはスマホで調べた。
ベルガモットとライを混ぜたものらしく、「カクテルの女王」と言われているらしかった。ちなみに「カクテルの王様」はマティーニ。マティーニのレシピは知らない。マンハッタンはチェリーがついているらしく、これはカクテルに漬けておいて、中盤か最後につまむのだそうだ。
生ハムを頼んであったので、原木からそれが切られるのを眺めていた。
「それはイタリアなの」
と老夫婦の夫が言う。
「これはフランスですね。イタリアは今とても高いです」
と返す。
ひとの生ハムである。
「それ、何を飲んでいるの」
とついに、老夫婦の夫の方が私に話しかけてきたので、私は、
「これはマンハッタンです」
と返す。
「何でできているの、それは」
と先ほどスマホで調べたことをもったいぶって私は言ってみる。
老人はふんふんと言う。
老人と言っても、この老人はスーツが白であって、中のシャツは黒っぽいものであった。ネクタイもしていて、だいぶ派手な人のようである。
「お仕事ですか」
「いえ、結婚の顔合わせがあったので、今日こちらに泊っているんです」
「結婚? いやー、めでたいね。おめでとうございます」
老人の奥にいる夫人も顔をのぞかせて、
「おめでとうございます」
と言ってくれた。
マスターも「おめでとうございます」と言ってくれる。
その後、ご出身は、などとぽつぽつ話をし、私が眠っている彼氏を部屋で一人にして飲みに来たことを告げると、
「部屋に彼氏置いて一人で飲みに来たの!?」
とびっくりしたようだった。
「そうなんです~」
と返す。
酒が飲みたかったのである。お腹も少し空いていた。
「マスター、とはいえおめでたい話だからさ、何かつくってやってよ。僕が持つからさ」
と老人はマスターに伝えてくれる。
「何か、おめでたいお酒を」
「かしこまりました」
と言って、マスターはグラスを取り出した。
こういうことは気持ちよくおごられるのが筋である。
また、ぽつぽつと話す。僕にも息子がいてね、あれももうそろそろ結婚してくれるといいんだけどな、とか、娘の父親だと最後にスピーチができないんだよね、僕はスピーチが好きだからさ、などと話す。
豪奢な人だと思うけれど、いかにもこの土地の人らしいと思った。私は親しみを覚える。
「おめでたいお酒ということで、シャンパンを用意しました」
と言って、マスターがレモンの皮の入ったグラスにシャンパンを開けて注いでくれた。
はー、こんなことがあるんだなぁ、と思いつつ、
祝っていただいたので私も楽しくお酒を飲む。
席を立つときも、
「おめでとうございます」
と夫婦それぞれに祝ってもらい、私は一人、マスターと話した。
「ああいう風な大人になりたいものですね」
と彼は言った。
私も大人になったら、一人でバーに来ている女の子だか男の子にお酒をおごれるようになりたいなと思った。
このブログで今年のテーマを決めた時、Celebrateは自分で自分のことを祝う、とか、自分が他の人のことを祝う、とか、そういうことを考えて今年のテーマを考えたのだが、まさか自分がCelebrateされる立場になるとは思っていなかった。
よい思い出。