2022年にノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノ-の『シンプルな情熱』を読んだ。
この本は、休日、恋で何も手がつかなくなっている私に安息を与えた。
エルノ-が経験した恋と私が現在経験している恋は同じではない。
しかし、「彼」と過ごす時間、それがなくなっている時のじれったい感じ、恋焦がれながらも理性的に書く彼女の行為――に私はとても共感した。
この話は不倫をする女の人の話で、恋による恋のための恋で、それは決して実るものではないとわかっているけれど、でもどうしても惹かれ、頭の中も生活も「彼」でいっぱいになってしまう、あの何にも熱を帯びたあの感情を読むことで私はちょっと救われた。
情熱、恋に日本語訳はパッションというふりがなをふる。
フランス語でpassion とはどういう意味なのかをあらためて調べる。
①情熱
parler avec passion (情熱をこめて語る)
②激しい恋情、恋心
passion subite (のぼせあがり、一目ぼれ)
③熱狂、熱中;道楽
《Tu aimes la musique? --C'est ma passion.》
(音楽は好きですか? 音楽は私の生きがいです)
キーボードがフランス語仕様ではないので、これくらいしか引用できないが、passionというものが単なる「情熱」にあてはまらない言葉であることがわかる。
◇
私がエルノ-という小説家についてもっと知りたいと思ったのは解説にあるインタビューの引用を読んでからだった。
以下、引用。
『男と女の間にある大きな誤解の種は、女の側が、意識的にせよ、無意識的にせよ、人生の設計とか、将来像を期待しがちなことです。ところが男の方は、外界へ出ていくように条件づけられているんです。旧態依然とした役割分担が、今でもなお重くのしかかっているんですね。でも私が男性と分かち合えるのは、その場限りの時間と、欲望と、感動だけです。
女性は、長期的に動こうとします。passionが自分をどこかへつれていってくれるのを期待するんです。ところが私のケースは、恋の行きつくところはやはり恋でしかありませんでした。私が唯一企てたこと、それは果てまで行くということでした。ただし、この「果て」というのは、二人で暮らすということではありません。つまり、他に目的なんかない、恋のための恋だったんです。そんな恋をすると苦しみます。でも幸せにもなります。これは、むしろ男性によく見られる形のpassionです。』
(《レヴェーヌマン・ド・ジュディ≫1992年4月2日付)
本書は『passionを得るということ』、『書くこと』という私の関心について実に理性的に書かれた本だった。
大学の専攻がフランス文学で、アニー・エルノ-に出会い、原語で読めていたらどれだけ感動していただろう、と思った。
この本はまた読むと思う。