はちみつのdiary

hannyhi8n1から引っ越しました。

読んだ:『優しい地獄』

ルーマニアから日本に来て青森で人類学の研究をされているイリナ・グリゴレさんの『優しい地獄』をやっと読んだ。

ルーマニアの森の風景や祖母との思い出、社会主義での国での暮らしと、現在暮らしている日本での日々のエッセイであるが、結構暗いエッセイだったと思う。いたるところに死のにおいが感じられ、身体というもののもろさを感じる。

 

まあ、でもこれを読もうと思ったのはたぶん、祖母の死ぬ間際を今朝、目が覚める間際に思い出したからだろう。

 

私の祖母は、見栄っ張りで、かと思えば引っ込み思案で社交ベタなところもあり、しかし気位は高かった。彼女が死んだあと、母は祖母のブローチや着物を形見としてもらい受けていて、私も一つ、祖母のアクセサリーをもらい受けた。

 

ルーマニアでの森の暮らしや幼年時代はどんなものなんだろう、きっと光にあふれた森ではちみつをとったりパンをつくったりしているんだろう、という予想は結構ずれる。牛の首、豚の死体、腫瘍のできた身体……など、けっこうそこかしこに「こんな世界であるはずがない。でもこのような世界に私は生きている」という描写があって、なまじ「かもめ食堂」に憧れてフィンランドを目指すようになった独身女性が同じような気持ちで読んでいい本ではなかった、と思う。

 

でも祖母との思い出だけが美しく語られていて、これは故郷についてのエッセイや、家族について、ひいては自分とは誰なのか、とか自分の身体とは何からつくられるのか、ということが語られているのだと思った。

 

自分の幼年時代を映像をみたかのように残しているところが多くあって、果たしてそういうことが私にもできるかというとわからなかった。

 

愛情とともに、抑圧というもの、死に近い感覚を感じたことのある人にとっては、読んだ後に自分のほの暗い部分を言葉にしていくことができる――そんなエッセイだったと思う。