「今日は何にしようかなー」と言うと、パートナーが「お肉がいい」と言っていたので、夕飯をハンバーグにすることにした。私は豚肉をできるだけ避けているので、牛100のハンバーグをつくるのである。
この間に鶏肉と豆腐のハンバーグをつくり、それも「美味しかった」と褒められたので、在野のハンバーグ職人になれるくらいになろうと思い、国産黒毛和牛210gを買って家で料理の支度をした。
ハンバーグにするのは、パートナーの希望もあったが、私自身めでたいと思ったことがあるからである。
今年のテーマは”Celebrate”である。『できることを一杯増やして、何かできるようになる度、お祝いをする』と書いた。
この日は確定申告のためのe-TaxのIDとパスワードを取得した。
また、研究室訪問に行った先生に連絡をして、4月から授業の一部に参加してよいことになった。そのようにして、着々と研究をする準備を進めている。
あー、仕事を辞める準備をしているんだなぁと思った。
心ではお仕事を辞めることはもう決めている。院試に向けて準備をしたい、ということもそうだし、パートナーにもっとコミットできる時間を増やしたい、とも思うからである。
「この仕事をしていて思うんだけど、一緒に生活をしているだけで、旅行とかにも行けるかどうかわからない、というのは、実質遠距離恋愛をしていた頃と変わらないのではないだろうかと思った」
と、パートナーに告げると、
「言わなかったけど気づいてしまったか」
と言って彼は笑った。
晩御飯を一緒に食べて、一緒に眠るだけの生活であったが、休日がなかなか合わずにいるということは、なんか違うなぁと思ったのだ。まあ、もちろん東京でOLをしていた頃に比べて、長電話をすることもなくなったし、毎日一緒にいられるし、よくはなったのだけれども。
ハンバーグを片面焼き始めると、パートナーが帰ってきた。
「良い匂いがする~」
と言っていた。時刻は20時半である。
「今日はハンバーグって聞いていたから赤ワインを買っちゃった」
と言ってボトルのワインを差し出してくれた。
「え、言わなかったけど買ってきてくれてとってもうれしい。ありがとう」
と感謝を伝えて、
「別の料理もあるから先食べていていいよ」
と言った。
「いいよ、僕だけ先に食べるというのもなんだから、それだったらお皿を洗っているよ」
とパートナーは申し出てくれ、私はハンバーグを焼き、彼は鍋や皿を洗った。
その日にあったことや、嬉しかったことや、もやもやしたことを話したりした。パートナーは最近の買い物で悔しかったこと(大根の値段のこと)を話していた。
お仕事を辞めるということは、まあ、ずっとよくないことだと思っていた。
でももうこのタイミングしかないのである。これを逃すと、もっとずっとずっと後悔してしまうし、研究をするということが、自分にとってはすごくプラスになっていくということが、考えてみても、どう考えてみても、直感でもいいと思えるのだ。
「でもさ、大学の授業に参加するとなって、周りの子とかみんな年下なんだよ。話合わせられる?」
とパートナーが聞いた。
「社会人と学生では何が違うんですか、って聞かれそうだから用意しておくんだけどね」
と前置きをして私は言う。
「いろんな仕事があるけど、協調することが大事だなと思うんだよね。何かを調整したりとか、他の人とうまくやることを考える必要がある。学生は自分の内側にひたすら問いかけていくだけでいい。そこが違うかなと思うんだよね」
「つまりあなたは協調ができなかったのですね」
「そうです」
しかしまあ、研究において協調することが全くないか、と言われるとそういうことではない。共同研究ということだってありうるし、私の研究していく分野は集団について知る分野なのである。だからまあ、自分のやっていることややってきたことがすごく違うか、とか、そういうことが全く必要ではないか、というとそうではない。自分の特性や個性を活かせる方向について苦しみながらも真剣に考えた結果、お仕事は辞めた方が良さそうだ、という結論に至ったのである。
「次の転勤先はまた東京になるだろう」
というようなことをパートナーが言った。
それを聞いて、「東京ですか」と思った。
次の日に起きて大学がやっている外国語の講座をみつけた。
スワヒリ語とか、ウルドゥー語とか、アフリカーンス語とかいろいろあり、いろいろあった中で、「この国に行こう」と思う国があったので申し込みをした。
パートナー氏は今、TOEICを自宅受験している。
いろんなところに一緒に旅したい。