はちみつのdiary

hannyhi8n1から引っ越しました。

『ボリス・ゴドゥノフ』

新国立劇場で上演されている不評なことで有名な『ボリス・ゴドゥノフ』を観てきた。

初のオペラがロシアオペラということもあり、新演出ということもあってWikiでリューリク朝、ボリス、偽ドミトリー、ミハイル・ロマノフについてさらってから観た。

 

有料パンフレットに恩師の奥様が寄稿されており、恩師も奥様と一緒に観たかな...と思いを馳せた。

 

閑話休題

 

「新演出」「ボリスの心理にせまった」「読み替え演出」などで従来の『ボリス』好きからは批判をされているらしいオペラである。もともと『ボリス・ゴドゥノフ』は史実をもとに、リューリク朝の流れをくむドミトリー暗殺説を下敷きにしてプーシキンによって書かれたオペラである。

 

今回の演出は特に歴史劇というより(ボリス個人の内面に焦点をあてたものというのもあって)、やはり『マクベス』を想起したし、実際『ボリス』でなくてもよかったのでは......? と思った。

 

というのも、一つにはポーランド侵攻の場面がカットされていたことと、フョードルの障がいが重めに設定されていたこともあり、今回のトリレンスキ演出は「トリレンスキ版」とでもいうべきものであったことが言える。

※2018年にはイヴォ・ヴァン・ホーヴェ版の『ボリス』がパリで上演されているらしく、そちらはどのような演出がされているのか気になっている。

 

私は『ボリス・ゴドゥノフ』のDVDを大学の授業(「ロシア文学」)で観たのだが、その時は華やかな舞台装置と衣装の「伝統的な」演出がされており、リューリク朝断絶の後のボリスの策略みたいなものがロシアに与えた影響、みたいなことについて講師の先生が述べていた。

(でも当時私が興味があったのはロシア正教会の位置付け、宗教的権威、民衆への影響、みたいなものだったのでボリスについては「そんなツァーリもいたんだ...」くらいの認識しかしていなかった)。

 

タタール出自でも前帝の娘と結婚することで、摂政になれるくらいの権力を持つことができるんだ、とか貴族会議はどういう人たちで構成されていたのかな、とか民衆はどうしていたのかな、とか今になればこそ興味はつきないが、偽ドミトリーが4代も出てくるということは相当治世をするのが大変な時代だったのだろう、などと思う。

 

トリレンスキ版で特筆できる点は特にないと思う。強いて言えば、前衛的な舞台装置・衣装・解釈をしたこと、ロシアがもつ歴史の正当性みたいなものを失わせるような暴力への批評が読み取れるくらいで、それにしたってもうちょっと民衆や貴族会議やピーメンみたいな教会の人物とかに焦点をあてることで、ロシアなるものを成立させる帝国のようなものを描き、一人の為政者だけの暴力の血塗られた世界が全てではないことを提示することもできたのではないだろうか。

 

ということで、はじめてのオペラがロシアオペラというやや挑戦的なものを選んでしまったけれど、貴重な体験にはなりました。

 

はやくアンナ・カレーニナ読も……。