はちみつのdiary

hannyhi8n1から引っ越しました。

読んだ:『えーえんとくちから』

晦日のお昼ご飯は、雑穀米のおにぎりと、梅干しと、柚子風味のおかかであった。グラスに入った麦茶を飲む。

実家に帰っている。こちらは明るくて暖かくて春のようだった。聞けば気温は13度だという。空は青く、雲がたなびき、陽光のふりそそぐ年末である。

 

梅干しって口がさっぱりして美味しいものなんだな……などと思いながら、古本屋で買った笹井宏之の歌集『えーえんとくちから』(筑摩書房)を読んだ。

 

目にしたことのある歌が何首かあった。他に、「花びら」「鞄」「まぶた」「海」「ゆび」「風」など、若さを感じさせる言葉が多いなぁなどと思って読んでいたら、巻末になって、この人が26歳の若さで死んだのだと知った。

 

同じタイミングで買った『桜前線開架宣言』に、笹井宏之さんの歌について、「透明」という表現があり、確かに、と思った。

 

静かな空間で絵画を鑑賞している時みたいだ。その絵を見ている時、海の穏やかな波音が聴こえる。クリーム色のカーテンが揺れる。近くにガラスでできた動物の小さな彫刻がある。

 

……という風に、ひっそりして研ぎ澄まされた歌なのである。

 

エッセイも一篇入っていて、恋人と交わす挨拶の「おはよう」と「さようなら」に色がある、という話で、すごくすてきだな、その感じわかるな、と思った。

 

私は場所を変えてカフェに来た。

カフェでは騒々しく人が話し、蒸気の音がして、お家にはいられない人たちであふれていた。

笹井宏之さんは、こういう場所を好むだろうか? 嫌うのだろうか?

 

寝たきりで夭折してしまった歌人。言葉を紡ぐことで自分の世界を広げていった人。

 

でもこの人の書いたものを読むことで、私はこの人の透明さに近づけるのである。

 

あなたの透明さは私の色調をずっと濃くするようです

墓に眠る歌人